分かったようでよく分からない言葉に要注意 - ITエンジニアの気づき

Abstract
ITエンジニアが業務で遭遇する「分かったようでよく分からない言葉」に注意を促す記事。製品・商品・仕掛品、出荷・入荷、送信・受信、ビジネス・業務といった言葉は、使う人や状況によって意味が変わることがあり、認識のずれがトラブルの原因になりうる。これらの言葉は、正しい定義を知るよりも、その場で「ここでいう〇〇とは何を指しますか?」と確認し、認識を合わせることが重要だと強調している。特に、緊急時ほど言葉の省略や誤解が生じやすいため、立ち止まって確認することが解決への近道となる。
はじめに
単語・用語の意味・解釈を取り違えてトラブルになったこと、ありませんか?
当ブログを始めた初期の頃に、Shift_JISとMS932にハマったときの話というエントリを公開しました。業務システム系ITエンジニアを生業とする私が、Shift_JISという単語に惑わされ直面したトラブルについて、なぜそんなことが起きたのか背景を含めて語ったものです。 その末尾では、知っているつもり・理解しているつもりの事柄であっても、実際には不足や誤った理解をしていることが往々にしてあり、そこに足元を掬われないよう確認を怠らぬべきだ、というニュアンスで締めくくっていました。
あれから4年ほど経ち、最近、いくつか新しい案件に携わる中で、改めて気づいたのは、自分が何気なく使っている単語・用語であっても、人によって解釈や理解が異なるケースが少なくないということ。そして、関係者間で言葉の意味や認識を揃えておかないと、大騒ぎの火種になることもあります。。。
備忘と自戒の意味も込めて、最近気になったものから、過去の記憶も含め、個人的に"紛らわしいな、気を付けないと危ないな" と思える単語・用語について実際に発生したエピソードを交えて紹介します。
このエントリで扱う内容の注意点
ここで記載する単語・用語の定義は私の理解に則ったものであり、必ずしも正しいとは限りません。実務では個別PJや顧客によって定義される意味合いを正としてください。 このエントリは「正解の定義を提示する」ことではなく、分かったつもりでいる、よく聞く単語・用語であってもその場で意味を確認・認識合わせすることが大切、という点を共有することを目的としています。
定義があいまいな単語 - 品目の分類
品目・モノを定義・分類する単語として、製品・商品・半製品・仕掛品・原料・資材等をよくきくことがあります。これらの言葉には明確な定義があるのかもしれませんが、企業や人によってブレていることが得てして多くあります。
例えば、製品・商品・仕掛品を例に見てみましょう。この3つの私の理解は次の通り。
- 製品:自社で製造し、販売する最終的な形のモノ
- 商品:自社では製造せず、外部の仕入先から仕入れて販売するモノ
- 仕掛品:自社で製造するモノのうち、まだ完成していない途中段階であり、このままでは販売できないモノ
一方、これを営業さんの視点で見てみましょう。モノを売ることを本業とする営業さんからすると自社で製造する製品 / 外部の仕入れ先から仕入れた商品 を区別する必要性が薄く、「売るためのモノ」という意味で、製品も含めて一括りに「商品」として扱うケースも少なくありません。
このことを理解していない状態でこの営業さんと会話すると、こんなことになるかも。。。
- 営業担当者:商品について教えてほしいんだけれど、(製品のつもりで)工場の製造リードタイムってどうやって決まるの?
- ベンダー担当者:(商品の工場だから仕入先さんの納品リードタイムと勝手にとらえ)リードタイムですね、それは仕入先と品目ごとに計算式を定義できますよ
- 営業担当者:何で仕入先?工場で作っているんだから仕入先関係ないでしょ
- ベンダー担当者:いや、商品なので(仕入先の)工場で作っていますから、仕入先さんが関係しますよね。
- 営業担当者:え???
- ベンダー担当者:え???
コントみたいなやり取りにみえますが、お互いが間違ったことを言っているわけではありません。それぞれ別の意味で「商品」という言葉を使っているだけ。だからこそ、リアルな現場でも十分起こり得るのが怖いところです。
類似ケースとして、工場側の人は、完成した製品であっても工場の敷地にあるうち(製造部門が管理している間)は(最終)仕掛品と呼び、製品といっても通じない なんてこともありました。
このケースでも工場担当者の「仕掛品」というなの「製品」に惑わされて話がかみ合わず空中戦に突入する可能性があります。
- 工場担当者:完成した仕掛品について教えてほしい
- ベンダー担当者:(完成した…仕掛品?完成したのに仕掛品??)
- 工場担当者:営業に渡す流れを確認したいのですが
- ベンダー担当者:営業に渡す目的はなんですか?
- 工場担当者:(何言ってるんだ?こいつは)販売してもらうからに決まってるだろ
- ベンダー担当者:仕掛品ですよね?未完成のモノを売るんですか?
- 営業担当者:え???
- ベンダー担当者:え???
このように、同じ「製品」「商品」「仕掛品」という単語でも、人によって思い浮かべるものは全く違うことがあります。大事なのは正しい定義を知っていることではなく、「ここでいう商品とは何を指していますか?」と最初に確認すること。分かったつもりになっている言葉ほど、一度立ち止まって認識合わせをする価値があるのだと思います。
主語・視点によって意味が逆転する単語 - 出荷 / 入荷、送信 / 受信
出荷 / 入荷なんてごく当たり前に使っているし、一見 間違えることがないように見えますよね。でも結構危うい言葉だと思っています。なぜなら、誰からみて・どこからどこへの出荷/入荷なのかを省いてしまうと途端に向き先が曖昧になってしまうからです。
例を見てみましょう。工場で出来上がった製品を倉庫に納める、という業務があるとします。
工場 | 倉庫 | ||
|---|---|---|---|
1 | 工場出荷 | →(製品)→ | 倉庫入荷 |
2 | 工場入荷 | ←(製品返品)← | 倉庫出荷 |
このモノのやり取りを工場視点で語る場合、1の動きは「出荷」、2の動きは「入荷」になります。
一方でこれを倉庫視点で語る場合は、1の動きは「入荷」、2の動きは「出荷」にあたります。
もし誰視点で語っているのかが明確でない、もしくは「工場出荷」「倉庫入荷」から「工場」「倉庫」という単語を省略して語ってしまうとどうなるでしょうか?単に「出荷」「入荷」とだけ言われても、どちらからどちらにモノが動くのか分からなくなりますよね。
得てして工場担当者は誰視点で語るかお互い分かっているため、単に「出荷」「入荷」で済ませてしまうことが多くあります。
例えば慣習的に倉庫視点で語る会社さんとのやり取りではこんなシチュエーションが起こらないとも言い切れません。
- 工場担当者:(倉庫)入荷処理で障害が発生したからすぐに調べてほしい
- ベンダー担当者:(工場からの問い合わせだから工場入荷かな)何を入荷しようとしていますか?仕入品ですか?
- 工場担当者:何言ってるんだ、(倉庫)入荷なんだから製品に決まっているだろう
- ベンダー担当者:え?製品の入荷?返品ですか?
- 工場担当者:違う、(倉庫)出荷の話はしていない、(倉庫)入荷だって
- ベンダー担当者:え???
- 工場担当者:え???
この例のような入と出が発生する言葉のペアは、主語が何か、誰視点で語っているのかを確認しないと話はかみ合いません。
同じようなものに、送信 / 受信 があります。こちらも誰から誰への送信 / 受信 なのかに言及しないと向き先を勘違いしやすいものの代表といえるでしょう。
「送信でエラーが起きました」とだけ言われても
- AシステムからBシステムへの送信なのか?
- BシステムからAシステムへの送信なのか?
- はたまたユーザーのPCからサーバーへの送信なのか?
が分からなければ調査のスタート地点にも立てません。
こういう認識違いは、平常時よりも障害対応中のような"急いでいる場面"ほど起こりやすいものです。焦るほど主語が省略され、「入荷が失敗した」「送信できない」といった断片的な言葉だけが飛び交います。
だからこそ、「誰から誰への話ですか?」「どのシステム視点ですか?」と一度立ち止まって確認することが、結果的には復旧への近道だったりします。その確認をせず先走った結果、原因とは全く別の場所を調べ、誤ったデータ更新してしまう等の二次災害も十分に起こりえます、恐ろしや。。。
似ているが対象となるレイヤーが異なる単語 - ビジネス / 業務
最後に今回語る中で最も説明・整理が難しいトピック、同じ対象を見ているけれど、見ているレイヤーが違うというお話。
ここでは、最近まで(今でも若干)私を混乱させた「ビジネス」と「業務」を例に取り上げたいと思います。というのも同じ仕事をしながら話していた際に、「それは業務の話ですね」「ビジネスの話をしましょう」と言われたことがあります。この時点では業務とビジネスって何が違うんだろう?(「ビジネス要件」と「業務要件」を同じような意味で使っていた自分がいたため)やや混乱していました。
改めて話を聴き、理解した内容を自分なりに整理してみると、この2つの言葉は、指し示すレイヤーが異なるのでは、という点に気づきました。
「業務」が「企業活動を維持するための取り組み(バックオフィス等、必ずしも直接利益につながるもの以外も含め)」を指すのに対し、
「ビジネス」はより上位のレイヤー、「企業に利益をもたらすもの、企業が成長する上で必要となる取り組み」のようなニュアンスに受け止めました。
その理解で考えてみると見える世界が変わってきました。例えばAIやシステムを用いて業務負荷を下げる、業務を30%効率化する、は「業務」の改善としては◎ですが、
「それによって会社がどう成長するか?」という点には言及できていません、そこまで言及することが「ビジネス」の話になると感じました。
ここでいつものたとえ話を。
- 顧客担当者:会社として新しいビジネスを考えたいんです。
- ベンダー担当者:では、まず受注業務の課題を整理しましょう。
- 顧客担当者:もちろんそれも大事なんだけど、その前に"何で稼ぐ会社になるか"を考える、ビジネスの話をしたいんです。
- ベンダー担当者:あ、業務改善の話ではなく、もっと上位の話ですね。
「ビジネス」と「業務」は、どちらも仕事に関わる言葉なので、つい同じような意味で使ってしまいがちです。しかし実際には、会社の将来や価値を考えるレイヤーと、それを実現するための日々の活動というレイヤーでは、話している内容が全く異なります。
カウンターとなる相手がどのレイヤー視点で語るか、どのレイヤーに興味を示しているか、それを意識するだけでも、会話のかみ合い方は大きく変わるように感じています。
私自身、相手が業務の視点で語っているのか、ビジネスの視点で語っているのか、少しずつ意識することを心がけるようになりました。それによって、見える景色が少しずつ変わってきたような気がしています(気のせいかもしれませんが。。。)
結び
今回は、「分かったようでよく分からない言葉」の曖昧さについて、定義・視点・レイヤーという3つの切り口から、実際に私の身の回りで起きた出来事を交えて紹介してみました。同じ言葉を使っていても、実は全く違うものを思い浮かべていたり、違うレイヤーで話をしていたりすることが少なくありません。
実のところ異なる業種・地域・文化で育ってきた人たちが一堂に会するPJでは、言葉の掛け違いや認識のズレは、ある意味では日常茶飯事です。
でも私は、そこに面白さがあると思っています。
背景も価値観も違う人たちが一つの目的に向かって歩み寄り、コミュニケーションを重ね、ときに笑いながら、少しずつ認識をそろえ、同じ目標にむかっていく。その過程こそが、プロジェクトを成功に導く大きな力になっている気がします。
おまけ
今回のアイキャッチは、「似ているけれど違う」夏の花ということでスイレンと蓮の写真を添えてみました。
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